QC検定1級論文対策

【QC検定1級対策シリーズ】現役技術者が教える「QC検定の知識を実務に応用するための思考法」

こんにちは、アドラーです!

今回は「QC検定1級論文対策シリーズ」として、「QC検定の知識を実務に応用するための思考法」という記事を書きました。

私のQC検定1級の合格体験談で紹介したようにQC検定では30分で750字の作文を書く必要があり、QCの本質を理解していることが重要です。

QC検定に合格するために、SQCを中心とした数学の体系的な勉強をしている方も多いと思います。

一方で、体系的なQC知識は書籍で学ぶことはできても中々その知識を実務に適用することが難しいと感じている方も多いのではないでしょうか。

そこで今回は、製品開発を5年以上続けている研究開発職の私がQC知識を実務に応用した事例、特にどのような動機・考え方で取り組んでいたかという「思考の内容」を紹介します。

QC検定1級で同様の問題が出るとは限りませんが、QC検定1級では「QCDの観点でどのように自身の業務を変革したか?」という観点が問われていることを学べると思います。

この本質を理解して、QC検定1級の論文問題を書くためのヒントを得ていただきながら、これまで学んできた筆者の皆様のQC知識を実務に活かせないか、キャリア形成の方向性を考えるきっかけにしていただけると幸いです。

アドラー

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問題意識:QC知識をどうやって業務改善・キャリアアップに繋げる?

知識はあるけど「実務に使えない」を脱するには?

「SQC(統計的品質管理)を中心としたQC知識は知っているけど、QC検定1級の論文が全く書けない、また実務への活かし方がわからない」という課題感を持っている人は多いかと思います。

この課題感を解決するために、筆者が製品開発を中心にQC知識を活用した事例を深掘りしたところ「QC検定の1級の論文問題は本質の各論を聞いているだけ」と言うことに気がつきました。

この点に気づくと、QC検定1級の論文問題をどのように捉えればいいか、また実務にQCをどうやって取り入れればいいのかと言う前向きな思考をすることができます。

本記事ではこの思考法を紹介していきたいと思います。

QCの本質は「考え方」「もの作りの仕方」「仕組み」を変えるためにある

QC知識を実務に応用する方法は大きく分けて以下の3つに分けられるかと思います。

①「考え方を変える」自発的にQCD(品質・コスト・納期)を改善(自働化)できるよう業務に対する考え方・姿勢を変える。

②「もの作りを変える」→「品質不良品を作らない」ように適切な品質管理手法を駆使して開発・製造手法を高度化する。

③「仕組みを変える」「品質不良品を流さない」ように、品質トラブルの未然防止ができる組織へと仕組みを変える。

QC検定1級取得者は「品質管理活動のリーダーや指導的立場になれる人」であることも考慮すると、「QC検定1級の論文問題の本質」とは「考え方」「ものつくりの方法」「仕組み」の3つをリーダーとしてどのように変革してきたかを問うていると言い換えることができます。

アドラー

以上のように整理すると、QC検定1級の問題のほとんどが『QCDの観点で「考え方」「もの作り」「組織の仕組み」を変えたか?』についての各論を問うているだけだとわかります。

現場技術者としてどうやってQC知識を応用するのか?

それでは技術者が上記①〜③にどのように取り組めば良いでしょうか?

会社員技術者として思うことは、①→②→③の順番で難易度が高いため、順番に取り組むことが重要ということです。(特に③に関しては、仕組み改善が管理職の仕事になっているため若手では手が出せないことが多い。)

以上のような課題意識のもとで、本記事では自発的にQCDを改善するための「思考法」と体現するための「専門性獲得の方向性」を中心に記事を書きましました。

本記事をもとに自発的にQCDを改善して業務に対する考え方・姿勢を高度なものとすることで、次のステップである「もの作りを変える」ステージにチャレンジするきっかけとしてもらえると幸いです。

本記事の概要

それでは、具体的に自発的にQCDを改善するための「考え方」と体現するための「専門性の獲得の方向性」について、現役技術者の筆者の体験談をもとに紹介していきたいと思います。

ポイントは以下の3つです。

  1. 研究開発でQC知識を活かすべきポイントは「製品コンセプト」と「品質・開発スピードの両立」の2つ。
  2. 「製品コンセプト」の理解度が「研究開発の質」を左右する。
  3. 「品質・開発スピードの両立」のためには「固有領域」「QC」「情報科学」の専門性を順序よく身につけることが重要。

アドラー

それでは、詳細な内容を見ていきましょう!

研究開発でQC知識を活かすべきポイントは「製品コンセプト」と「品質・開発スピードを両立すること」の2点

製品コンセプトの重要性

製品開発において、競合製品と比べてQCD(品質・コスト・納期)をどのようなポジションにするか、つまり製品開発コンセプトが最も重要です。

一般的に品質開発では以下のような4つに分けられますが、いずれの領域でもQCDの改善を行っていることかと思います。

設計マネジメントの教科書 [ 中山 聡史 ]から引用・一部改変。筆者は上図でいう「成長領域①」の市場で戦っています。
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具体的な開発の流れとしては、主に営業部門やマーケティング部門が市場動向を分析し、技術開発戦略を管理職が検討し、現場社員へと要素技術開発アサインされることが多いと思います。

ここで重要になってくるのは、読者の皆様が「QCDどの部分を改善するために仕事に取り組むのか」という視点でしょう。

この部分が曖昧になっていると

「何のためにこの仕事に励むのかわからない」

「そもそもこの仕事には意味等ないのではないか」

という風に仕事の意味が曖昧となり、「作業」をこなすだけの仕事になっていくことでしょう。

作業をこなしているだけではQCDの改善にはなかなか繋がらないと言うことは想像に難くないと思います。

このような状態を脱するためには、

現場サイドの若手は「QCDのどの分野を改善するために今の仕事に取り組むのか」を経営者・管理職と同じレベルで明確な認識を持つように取り組むこと

経営者・管理職は「QCDのどの分野を改善するために仕事をお願いしているのか」を明確に伝えること

がポイントになります。

アドラー

言われたら当たり前ですが、自分の業務を振り返ってみると各論ばかりを気にしていて本質的なことまで思いを馳せずに業務に取り組んでいることも多いかと思います。

しっかり「本来の目的」を整理することは業務効率を上げるためには重要です。

品質と開発スピードを両立するには?

QCDの改善ポイントに基づいて製品コンセプトが決まったら次に行うべきことは「品質と開発スピードを両立するための手法検討」です。

近年はどの業界も競合との競争が激化しており、原価を削減しながら高付加価値化することの必要性が叫ばれています。

一般的に製品開発では主に以下のようなステップを踏みますが、品質と開発のスピードはトレードオフの関係にあります。

①製品企画
後工程(顧客)を意識してQCDの観点から「これでよし!」と思える品質目標を定める。

②要素技術開発
高度な固有領域の専門性(+機械学習など情報科学的手法を組みわせ)に基づいてプロトタイプを作り、知財で参入障壁を作る。

③量産開発
SQC(管理図、工程能力指数など)を使いこなして確信の量産品質を確保する。

④市場評価
小規模の量産を行い、市場でのロバスト性を検証する。

⑤本格量産
本上市して工程を適切に管理しながら、時勢に合わせたQCDとなるように仕様を最適化・変更管理する。

品質と開発スピードのトレードオフを解決するためにはどうしたらいいのでしょうか。

私は以下の3つの専門性を身につけ、実務に応用していくことが重要と考えています。

  1. 固有領域
  2. 品質工学・品質管理の知識
  3. 機械学習を中心としたデータサイエンスの知識

次のセクションで、これらの専門性についてを詳しくみていきましょう。

獲得するべき3つの専門性

専門性①:固有領域(バックグラウンドスキル)

自動車、素材などの製品及びその背景理論の知見に相当します。

機械工学、材料工学、有機化学、電気化学、無機化学など科学現象を測量・原理解釈し、新しい開発のヒントや品質トラブルの根本原因を見抜くための知見とも言えるでしょう。

製品の根本を理解するための必須知識なので、私は「バックグラウンドスキル」とも呼んでいます。

これらの大学でこの専門性のベースを学ぶことが多く、大学時代に獲得した固有領域の知識を活かせるような領域で仕事ができれば、知識を長期で運用できるため、キャリアアップできる可能性が高くなります。

アドラー

学んだ分野の「市場性」があることが前提になるので学生時代に何を学ぶかは重要な選択であるように思います。

専門性②:品質工学・品質管理(QC)

品質トラブルを未然に防ぐための専門性、現在の製品品質のレベルを判定するための専門性と言えるでしょう。

QC検定で学ぶ知見のほぼ全てがここに該当しており、「QCDの改善」という前提の基でSQCと呼ばれる品質管理手法(管理図、実験計画法、工程能力指数)などが使いこなせると品質技術者として中級レベル以上と言えるでしょう。

アドラー

次の記事ではこのSQCを実務に適用した事例を紹介したいと思います。

専門性③:情報科学・統計学

データの傾向を正しく捉え、内挿領域の予測と外挿領域を効率的に探索するためのスキルです。

特に機械学習では内挿領域の最適化が得意なアルゴリズム(ランダムフォレストやSVR)の他、外挿領域(実験計画法、ベイズ最適化)があり、状況に応じて適切な手法を使いこなせるようになれば実験回数を減らしながら目標とする品質を容易に達成できることでしょう。

アドラー

かなり強力なスキルですが、初級〜中級レベルの知識はPC一つで学べるため、社会人になってからも獲得しやすい知識であるように思います。

※高度な専門性は大学などでないとなかなか習得しづらい他、一定のセンスも必要になる印象です。

専門性を身につける優先順位:①→②→③が理想的

次にどのように専門性を身につけるべきかを考えます。

基本となる考え方としては、20代の間に初学者レベルの知識は3つ同時並行で詰み、どこか一つの分野では「かなり高いレベルにある」と自信を持てることが一つのゴールです。

余力がある方は「3つの領域全てで中級者レベルにあると言えるレベル」を目指すと良いと思います。

一方で、中級以上のレベルで3つの専門性を確立するのは至難の業です。

そこで筆者は優先順位をつけて専門性を磨くと良いと考えています。

私個人の経験としては、優先度としては①→②→③の順番に積んでいくのが良いのではないかと思っているので、その理由を3つ説明します。

①固有領域の専門性の獲得が一番難しい

これはシンプルな話で固有領域の専門性を獲得するためには、現物を触るなどの一定の現場経験が必要であり、専門性を獲得できる場が限られているからです。

品質問題の対応をしなければいけない技術者の例にして考えてみましょう。

製造業の場合は、具体的な「モノ」を商品としている場合が多く、製品トラブルの多くは「市場で想定外の運転をして製品が摩耗してしまった」とか「設計時にばらつきを考慮せず、どうしてもコストダウンしたくてチャンピオンデータで設計してしまった」とかが理由で品質トラブルが発生していることが多いです。

トラブルの解決のためには、以下のような手順を踏みます。

  1. 固有領域の知識・経験に基づいた因果関係の推定する。
  2. 推定されるトラブル要因を再現するための実証試験する。
  3. 顧客にトラブルの理由を説明し、代替となる製品や運転方法を説明する。

勿論、データサイエンスやQCの知識は「相関関係」や「体系的なトラブル解決手法」を検討することは可能ですが、「因果関係を推定し、実証する」という一番肝心なところを補完できないのです。

詰まるところ、顧客が一番期待している「トラブルの理由解明」と「解決策の提示」まで届かないとも言えます。

是非、技術者こそ「品質とは顧客の満足を満たす度合いである」という原点に立ち戻り、顧客の期待に応えるための固有技術の専門性に磨きをかけることにフォーカスしてほしいなと思います。

アドラー

データサイエンス、QCの知見は勿論重要なのですが、あくまでそれはトラブルの解決をするための「補助道具」という認識が正しいのかなと思います。

②原理を理解してからQCや情報科学の知見を適用するのが最も効果的

①で述べたように顧客が一番期待しているのは「製品トラブルの理由」と「解決策の提示」です。

固有領域の専門性を高めた技術者でも問題の特定、解決策の提示をするためにはかなり時間を要します。

この問題点の特定、解決策の提示を高速化・高度化するスキルこそが「QC」「情報科学」のスキルなのではないかと筆者は思います。

例えば、市場で想定外の運転を行って事業部期待の新製品に故障したとしましょう。QC・情報科学の知識があれば、以下のような顛末が考えられるでしょう。

QC・統計の知識がない技術者の場合
製品開発歴10年のベテラン技術者は、ラボでの加速試験では性能試験に問題がなかったため、ある一つの運転条件の逸脱が原因と考えて十分な原因究明をしなかった。

真の故障の要因は、①製品設計時に製品ばらつき(内部のばらつき)を考慮せず工程能力が1.0程度のギリギリの設計をしていたこと、②ロバスト設計もされていなかったため市場のばらつき(外部のばらつき)に耐えきれなかったことだった。

すでにこの新製品は大量に顧客へ出荷してしまっており、大規模リコールに発展し、会社の収益力は大きく低下した。

QC・統計の知識がある技術者の場合
製品開発歴10年のベテラン技術者は、ラボではN5程度の加速評価データしか取っていないため、「設計そもそもに誤りがあるのではないか?」と考えた。

仮説に基づいて、加速評価のばらつきを評価し、工程能力を推定したところ、工程能力の区間推定をしたところ最小値が0.70と目標値を大きく下回っており、仕様変更が必要になった。

上市目標までの期間が短かったため、L9直交表を駆使しながら、ロバスト性を担保できるよう設計を行い、1割程度の原価アップに抑えながらばらつきに強い設計に変更した。設計変更のための実験設計ができたのも現場の知識(固有領域のスキル)とQC・統計学の知識をフル活用できたからである。

幸い上市目標には間に合い、品質トラブルが起きずに製品販売を行えている。

顧客の要求品質よりも高い品質であることも確認できたので、変更管理を行いながら原価低減できるように製品仕様を変更していくことで利益率の向上を目指した。

変更管理のための仕様変更には、機械学習を使って内挿領域でより最適な仕様がないかを効率的に探索していくつもりである。

以上のように、製品の設計問題に気づき、改善するためにはQC・データサイエンスの知識が強力そうだとわかると思います。

このストーリーは出来過ぎだと私も思いますが、理想を実現できるように多様なスキルを身につけていくことが技術者として重要かと思っています。

アドラー

確かな固有領域をバックグラウンドにして、QCとデータサイエンスの知識を活かすことで顧客の満足度を高められれば、「技術者冥利に尽きる」と言えますね!

③情報科学領域は今後高度な専門性を持つ学生が参入する最も競争の厳しい領域

今までの話を聞くと『「情報科学の専門性」が最後に身につけるべき専門性である理由がないのでは?』と思うかもしれません。

こちらにもしっかりとした理由がありまして、その理由は「情報科学領域は今後高度な専門性を持つ学生が参入する厳しい領域だから」です。

以下の表は令和5年度の東京科学大学(旧:東京工業大学)の学部別の合格得点の比較になります。見ての通り、情報理工学院が他学部を100点近く突き放す圧倒的な難易度であることがわかるかと思います。

https://admissions.titech.ac.jp/admissions/pdf/r5-2-zen-kou-tokuten6354789.pdfから引用

これは情報系では今後非常に地頭の賢い、高度な専門性を身につけた人材が労働市場に参入してくるということを意味しており、情報分野でキャリア形成をする場合には今後これらの強力な若い人材と競争していかなければいけません。

一方で、「現場のものづくり」に関しては現場技術者の領域なので、「ものづくり」という観点では情報系の人材と競合しません。

ですので、技術者のキャリアの戦略としては「高度な情報系人材と手を組めるように”ものづくり”で勝負する一方で、情報科学の会話についていけるようなベース知識を持った人材」になることが目指すべきキャリア像なのではないかと考えています。

アドラー

まさに「ブルーオーシャン戦略」で情報科学分野が人気だからこそ、その分野を避けつつ、情報科学分野の優秀な人材と手を組めるように日本の強みである「ものづくりの知識」で勝負するというのが理想的なキャリアではないのかなと考えています。

まとめ

今回の記事のまとめは以下の通りになります。

  1. QCの本質は「考え方」「もの作りの仕方」「仕組み」を変えるためにあり、QC検定1級はその中で受験者が行った「各論」を問うているだけ。
  2. 研究開発でQC知識を活かすべきポイントは「製品コンセプト」と「品質・開発スピードの両立」の2つ。
  3. 「製品コンセプト」の理解度が「研究開発の質」を左右しており、コンセプトの理解度を上げる。
  4. 「品質・開発スピードの両立」のためには「固有領域」「QC」「情報科学」の専門性を順序よく身につけることを意識する。

色々難しいことを書きましたが、結局のところこれからの技術者の仕事は「顧客満足度を高められるように、固有領域・QC・情報科学をバランスよく組み合わせることで”確信の品質”を持った製品を創る」ということなのだと思っています。

この理想の姿に近づくために「20代の間に固有領域・QC・情報科学の初学者レベルの知識を身につけつつ、自分に合った専門とする領域の知識・経験に関しては中級以上のレベルに到達することというのが私の20代の会社員経験で得た学びでした。

このような学びを得られたのはQC検定1級の論述問題に取り組みつつ、試験合格後も情報発信を通じて勉強を続けてきたからだと思います。

私の学びに共感し、「QCの知識をより高めたい!」という人はぜひ以下の書籍を読んで勉強していただけると筆者の励みになります。

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それでは最後に、私の大好きなドラえもんの言葉で今日の記事を締めさせていただきたいと思います。


なやんでるひまに、一つでもやりなよ

— ドラえもん

アドラー

今日もありがとうございました!

ABOUT ME
アドラー
東工大→大手メーカーのアラサー技術者です。品質管理検定1級を保有しており、新製品の研究開発に5年間従事しています。筆者の職務経験を基に「開発スピードと品質を両立するために必要な考え方、技法」を発信するブログを運営しています。

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